【カナタ電話第4巻第3号】
キーワード:分かち書き,固有名詞
Q:(第4巻第3号:1994年秋)次の固有名詞の単位別の分かち書きについて教えていただければ幸いです。
韓国 芸術 総合 学校、韓国 教育 大学校、韓国 国立 博物館、韓国 通信 公社、韓国 電力 公社、韓国 ガス 公社、韓国 共済 組合、韓国 情報 センター、韓国 貿易 総合 展示場、ソウル市 教育 委員会、ソウル市 教育庁 学務局、ソウル市 議会、ソウル 市立 交響楽団、世宗 大王 記念館
A:ご質問に関連したハングル正書法の規定は次の通りです。
◎姓名以外の固有名詞は、単語別に分かち書きをする原則であるが、単位別に(まとめて)分かち書きをしてもよい。(第49項)
◎単位を示す名詞は分かち書きする。ただし,順序を示す場合や数字と一緒に使われる場合には続けて書くことができる。(第43項)
まず例が特定機関の名称や商号であるという前提の下で原則と許容に分けてお話しすれば次のように分かち書きができます。
原則(単語毎) 許容(単位毎)
(1)韓国 芸術 総合 学校 韓国芸術総合学校
(2)韓国 教育 大学校 韓国教育大学校
(3)韓国 国立 博物館 韓国国立博物館
(4)韓国 通信 公社 韓国通信公社
(5)韓国 電力 公社 韓国電力公社
(6)韓国 ガス 公社 韓国ガス公社
(7)韓国 共済 組合 韓国共済組合
(8)韓国 情報 センター 韓国情報センター
(9)韓国 貿易 総合 展示場 韓国貿易総合展示場
(10)ソウル市 教育 委員会 ソウル市教育委員会
(11)ソウル市 教育庁 学務局 ソウル市教育庁学務局
(12)ソウル市 議会 ソウル市議会
(13)ソウル 市立 交響楽団 ソウル市立交響楽団
(14)世宗 大王 記念館 世宗大王記念館
上の(3)の「韓国 国立 博物館」を「韓国国立博物館」と続けて書くときにはそのような名前の機関(または部署)が存在して、これが固有名詞を示しているという前提が必要です。しかし我々が知る範囲では、現在「国立 中央 博物館」、「国立 民族 博物館」、「国立 全州 博物館」などはあっても、「韓国 国立 博物館」という名前の博物館はないようです。「「韓国 国立 博物館」を「韓国にある国立の博物館」全部を指す意味で使う場合もありえますが、この時には「韓国国立博物館」のように書くことはできません。「韓国 国立博物館」はいかなる場合にも正しくありません。(2)の「韓国 教育 大学校」も同様の例に属します。
(10)-(12)の「市」はひとつの行政区域や地方自治体を示す意味で分かち書きする場合もあります。(例:市 単位、市 当局)しかし、地名のあとで行政区域を示す場合には続けて書きます。「道、郡、洞」や「特別市、直轄市」なども同じです(例:ソウル特別市、仁川直轄市、忠清北道、慶州市、華城郡、城北区、三成洞)。これに従って、(10)-(12)は「ソウル市 教育 委員会、ソウル市 教育庁、ソウル市 議会」と書きます(正式名称は「ソウル特別市 教育 委員会、ソウル特別市 教育庁、ソウル特別市 議会」です)。しかし、(10)、(11)が特定の機構や特定の機関というよりも教育行政機構であるという面をはっきりさせようとするのであれば分かち書きが変わってきます。すなわち(10)が「道 教育 委員会」などと対比される「市 教育 委員会」という面に焦点を当てるなら「ソウル 市 教育 委員会」と書かなければならず、(11)が「郡 教育庁」などと対比される「市 教育庁」という面に焦点を当てるなら「ソウル 市 教育庁」と書かなければなりません。(12)も地方自治団体としての市の議決機関として、「国会」や「道 議会」と対比されている「市 議会」という面に焦点を置くなら、「ソウル 市 議会」と書かなければなりません。この場合には固有名詞として使うのではないので、「許容」で示したように続けて書くことはできません。
(13)の場合は、「市立」が「国立、道立、郡立」などのように独立してに使われるので、「ソウル 市立 交響楽団」と書くのが原則ですが、固有名詞として使う場合には「許容」で示したように続けて書くことができます。上のさまざまな例でご覧になったように、特定機関などを固有名詞として指すのに使う場合には単語別に分かち書きをするが、「許容」でのように単位毎にまとめて分かち書きをすることもできます。しかし固有名詞でない一般語句を指す時には必ず単語毎に分かち書きをしなければなりません。
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キーワード:類義語2,公安,治安
Q:(第4巻第3号:1994年秋)「公安」と「治安」という用語をどのように区別して使いますか。そして「治安」のという用語に「秩序」や「維持」という語を付け加えて使えるかどうか、すなわち「治安維持」や「治安秩序維持」と言ってもいいかどうか知りたいです。
A:「公安」と「治安」の辞書的な用法は次の通りです。
1.公安:(1)公共の平安。
(2)社会の安寧と秩序,またはそれを公権力によって強制的に図ること。
例:公安保障。公安事犯。公安統治。公安政局など。
2.治安:(1)国を無事によく治めること。または国が無事によく治められていること。
(2)国家社会で安寧と秩序を維持保全すること。
例:治安空白、治安力無視、治安不在、治安状態、治安維持、治安統制、治安行為、治安行政、治安確保など。
上の辞書的な用法を総合すれば、「公安」には社会の安寧と秩序が公権力による、したがって強制による結果という意味が内包されており、「治安」には社会制度と統治による結果という意味が内包されているという差異があります。上の2.の例のように「治安維持」という用語はよく使われていますが、「治安秩序維持」は使われません。「治安」は「秩序」を前提にしているので、「治安」と「秩序」の2語をつなぐと、同語反復になるためだと思われます。
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キーワード:分かち書き,「ㄴ데」と「ㄴ 데」
Q:(第4巻第3号:1994年秋)「데」が入っている「ㄴ데」は続けて書く場合と分かち書きする場合があるそうですが、どんな場合に続けて書き、どんな場合に分かち書きしなければならないのか教えてください。
A:ここで問題になるのは、「데」が依存名詞(形式名詞)か、「ㄴ+데」と分析される語尾の一部かということです。もし、「데」が依存名詞ならば分かち書きしなければならず、語尾の一部なら続けて書かなければなりません。
「네가 무엇인데 그런 소릴 하니? おまえが何様だからってそんな口を叩くんだ」の「데」は叙述格助詞【注】「이다」に語尾「ㄴ데」が連結されたものなので続けて書かねばならず,「그를 설득하는 데에 며칠이 걸렸다. 彼を説得するのに数日かかった」は「事や物」の意味を持つ依存名詞데 が連結したものなので分かち書きしなければなりません。
語尾としての「ㄴ데」は叙述格助詞や母音で終わる形容詞の語幹にだけつきます。上の「네가 무엇인데 그런 소릴 하니?」は叙述格助詞「이다」の語幹に語尾「ㄴ데」がついたもので、「키는 큰데 힘은 없다. 背は高いが力がない」は形容詞語幹に語尾「ㄴ데」がついたものです。上の「무엇인데, 큰데」の「ㄴ데」はみな「次の言葉を引き出すために、ある事実をまず与える」時に使う連結語尾ですが、この他に、「이것은 풀기 어려운 문제인데. これは解きにくい問題だね」、「공기가 몹시 찬데. 空気がとても冷たいね」のように,「他の人の意見を聞こうとする態度で自分が感嘆する意味を示す」時には終結語尾としても使われます。そして、「문제인데」は「문젠데」ともいえますが、これは母音で終わる体言の後ろで叙述格助詞の語幹である「이」が省略されたものです。
依存名詞「데」はふつう「물은 높은 데에서 낮은 데로 흐른다. 水は高いところから低いところへ流れる」のように用言の冠形詞形語尾の次に来て「ところや場所」を示しますが「일이 이렇게 된 데에는 너에게도 책임이 있다. 事がこのようになったのにはお前にも責任がある」のように「場合や状況」を意味することもあります。この他に「노래 부르는 데도 소질이 있다. 歌を歌うのにも素質がある」の場合のように「事や物」を意味することもあります。
したがって、用言語幹のうちで動詞語幹の後の「ㄴ데」は冠形詞形語尾の「ㄴ」と依存名詞「데」の結合なので分かち書きしなければなりません。形容詞語幹の後の「ㄴ데」のうちでも「데」が確実に「ところや場所、場合や状況、事や物」の意味を持つ場合には「ㄴ」と「데」を分かち書きしなければなりません。
【注】日本における韓国朝鮮語学では,通常「指定詞」という用語を用いています。(油谷)
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キーワード:連用形の縮約形
Q:(第4巻第3号:1994年秋)「사귀어」の縮約形はどのように表記しなければならないのでしょうか。
A:母音と母音が続く時の縮約形の表記について「ハングル正書法」では第35項から第38項にわたって紹介しています。第35項では「母音『ㅗ, ㅜ』で終わる語幹に『-아/-어, -았/-었』がついて『ㅘ/ㅝ, ㅘㅆ/ㅝㅆ』となる時には縮めたまま書く」と規定しており、第36項では「『ㅣ』の後ろに『-어』がきて『ㅕ』と縮む時には縮めたまま書く」と規定しています。そして、第37項では「『ㅏ, ㅕ, ㅗ, ㅜ, ㅡ』で終わる語幹に『-이-』がきてそれぞれ『ㅐ, ㅖ, ㅚ, ㅟ, ㅢ』と縮む時には縮めたまま書く」と規定されており、第38項では「『ㅏ, ㅗ, ㅜ, ㅡ』の後ろに『-이어』がついて縮む時には縮めたまま書く」と規定しています。
しかし、『ㅟ』の後ろに『-어』がきて成り立つ縮約についてはどこにも述べられていません。したがって、実際の言語生活では「사귀어」の縮約として「사겨」がたくさん使われていますが、これは標準語ではないものと見なさなければなりません。標準語は縮まない「사귀어」だけなので,縮約の表記はありません。
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キーワード:外来語のハングル表記,foul ball
Q:(第4巻第3号:1994年秋)「파울 볼」が正しいですか。「화울 볼」が正しいですか。「화울 볼」が英語のfoul ballの発音により近いのではありませんか。
A:英語のfoul ballから借用された外来語の正しい表記は「파울 볼」です。外来語表記法を知らない人の中には「화울 볼」と言う人も多いですが、「파울 볼」と言うのが正しいです。この単語だけではなく、原語の発音に[f]が含まれる単語は、例外なくその[f]の発音が韓国語では「ㅍ/프」と表さなければなりません。すなわちfigure skating、fiction、film、filterなどから入ってた外来語も「피겨 스케이팅, 픽션, 필름, 필터」が正しく、「휘겨 스케이팅, 휙션, 휠름, 휠터」のように書くのは間違いです。
原語に[f]音のある単語が韓国語に外来語として入る時に、「파울」か「화울」かに見られるように混乱が起こる理由は,韓国語に/f/という音素がなく、また異音としても使用されないためです。もし韓国語に/f/音素があれば、その音素に該当する文字があるはずですが、韓国語には/f/音素がないので/f/に対応する文字がありません。したがって仕方なく[f]に近い音で表すしかないのです。
[f]と似た韓国語の音としては両唇破裂音である「ㅍ/프」と摩擦音である「후」があります。[f]音の性質を見ると、音を出す方法においては摩擦音であり,音が出る位置としては下唇と上の歯の間の音です。ところで、韓国語の「ㅍ」は両唇の間の音ですから,下唇と上の歯の間の音である[f]とは多少の違いがあります。しかも,「ㅍ」は破裂音なので摩擦音とは明らかな違いがあります。一方「후」は[f]のように摩擦音であり,音を出す位置にだけ違いがあります。したがって調音位置も調音方法も共に異なる「ㅍ」よりは,調音方法だけは同じ「후」が[f]により近いというのが事実です。
それにもかかわらず[f]を「ㅍ」に対応させるのには理由があります。もし「후」が[f]に近いからといって,「피겨 스케이팅, 픽션, 필름, 필터」などを「휘겨 스케이팅, 휙션, 휠름, 휠터」と書くと、France、free kick、fly ball、fluteなどのように、[f]の後に母音が来ないで他の子音が来る場合にも「후랑스, 후리 킥, 훌라이 볼, 훌루트」のように書かなければなりません。また、scarf, staffのように語末に[f]が来る単語もやはり「스카후, 스태후」のように書かなければならないでしょう。[f]が子音の前と語末に来る場合は、「후」が不自然で「프」の方がましだからと言って「프랑스, 프리 킥, 플라이 볼, 플루트, 스카프, 스태프」のように書くということは、「外来語の1音韻は
原則的に1記号で書く。」という外来語表記法第1条第2項の基本原則に合いません。
母音の前にある時には「후」で、他の子音の前や語末に来る時には「프」で書くとして、[f]を母音の前に来る時と、子音の前や語末に来る時を区別して規則化することが考えられますが、母音の前の場合でも[f]を全部「후」で表せるとは限りません。たとえば、sofa、fanfare、fencing、fall(レスリング用語)などを「소화, 황화르, 휀싱, 훨」などとできないと思われます。結局、[f]を「후」で書いて少しは原語の発音に近づけようとしても,[f]を「후」とできない場合が多く生じるので,[f]を「후」として規則化するにはあまりにも多数の例外ができることになります。したがって、[f]を「ㅍ/프」で表すことによってのみ、[f]に関する外来語表記が単純化されます。
英語のpileとfileは、明確に区別できる別の単語なのに、[p]と[f]を両方とも
「ㅍ」にすることで、「피일, 피일」と同音異義語になり不便だと言う人がいます。しかし、原語で区別できていた言葉が、他の言語の外来語になる時に同音異義語になることが起こるのは避けられません。たとえ[f]を「후」としても、同音異義語が出るのは避けられません。fightとwhiteからできた言葉が両方とも「화이트」になるからです。「피일 pile」と「피일 file」の区別は文脈に頼るしかありません。
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