しかし、この原則(語法に合うように書くこと)はすべての言語形式には適用できないので、形式形態素の場合は異形態を認定して、発音のとおりに書けるようにしたのである。たとえば、 「막-아 / 먹어」 , 「소-가 / 말-이」 などのように、音韻形態が顕著に異なったものを1種類の形態に統一することはできないからである。
この上の部分の解説は、名詞 「꽃」 が 꽃이 [꼬치] 、 꽃나무 [꼰나무] 、 꽃다발 [꼳따발] などと多様に発音され、形容詞 「늙다」 の 「늙-」 が 늙고 [늘꼬] 、 늙지 [늑찌] 、 늙는 [능는] などと多様に発音されても、実質形態素は本来の形を明確にして、 「꽃」 と 「늙-」 と書くのであると言っています。
上と比較してみると、「막-아 / 먹어」、「소-가 / 말-이」の場合はハングル正書法で音の通りに書くことの例というよりは、異形態は主に実質形態素ではなく形式形態素に表れるので、特に、語幹と体言の種類によりこれに続く語尾や助詞に異形態があるということを示す例として妥当であると思います。表記と音が一致しないときには語法に合わせて書くということと、音のとおりに書くということはお互いに矛盾した概念です。ところで上の解説で例としてあげたものは、語法に合わないので音のとおりに書くという場合ではありません。そして、また、異形態を1つに統一して書くということは、語法に合わせて書くということでもありません。
ここに正しい解説をつけるならば、南北韓で正書法の違いを示す次のような例をあげるのがより適切のように思えます。
南韓標準語 北韓文化語 発音
가. 비율(比率) 비률 [비율]
효율(効率) 효률 [효율]
나. 냇가 내가 [내까/*낻까]
뒷일 뒤일 [뒨닐/#뒨일]
다. 어금니(奥歯) 어금이 [어금니]
아랫니(下の歯) 아래이 [아랜니]
上の例を見ると、北韓文化語正書法では発音に大きな負担をかけても語法に合わせて書くことを原則としている反面、我が国の正書法では表記に負担をかけても音の通りに書くことを原則としているということが確認できます。上の例すべての発音は南と北がほとんど同じで、「냇가」の場合は南韓では[내까/낻까]が共に許容されるのに対し、北韓では[내까]だけが許容され、「뒷일」の場合は南韓では[뒨닐]、北韓では[뒨일]と発音されるという違いがあるだけです。この他にも本来の形からははずれるものの音の通りに書く場合は、南韓では頭韻法則に関連した単語がありえますが、あえて南北韓の例を比較してみるならば、南韓では「폐」と表記して[폐/페]と発音している漢字「廃、蔽、肺、閉、幣、陛」などを、北韓ではすべて「페」と書き、書かれたとおりに発音することなどを例としてあげることができます。結論的に言ってみれば、音のとおりに書くものの例としては「막-아 / 먹어」、「소-가 / 말-이」より、上の韓国標準語の項の単語を列挙する方がより適切です。
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